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趣味の日記



2000/12/2(土)



ビーチボーイズを一人で支え、『ペット・サウンズ』(1999/09/23の日記
参照)を作ったポピュラーミュージック史上、最も偉大と言える・・かも
しれない天才:ブライアン・ウイルソンの自伝を読んだ。


『ブライアン・ウイルソン自叙伝』(径書房)

3700円(+税)となかなかのお値段だったがものすごく、面白かった。
もし、ブライアン・ウイルソンの音楽を全く知らない人が読んでも、これ
はなかなか面白いんじゃないかと思う。私はここんとこ、この人に入れ込
んでるので、余り客観的な判断とは言えないが。

まず、ウイルソン三兄弟(ブライアン、デニス、カール)の父親、マリー・
ウイルソンの無茶苦茶ぶりに驚かされる。ブライアンはこの父親に殴られ
どおしだったらしい。彼の片方の耳はほとんど聞こえないが、それも父親
に殴られたせいではないかと言われている。台所で無理やり、うんこをさ
せられた話もでてくる。ほとんど、常軌を逸している。

このマリー・ウイルソンの父親、つまりブライアンの祖父も残忍で暴力的
な人間だったらしい。暴力の系譜である。暗たんとした気持ちになるが、
こんな家系から無上に美しく、愛にあふれた(というと、くさく聞こえる
かもしれないが、それは本人もその他多くの人も言うところであり私も本
当にそうだと思う)音楽が生まれたという事実は感慨深い。

ブライアンは一時期、ドラッグにおぼれ、ほとんど狂人の様になってしま
う。デニスもドラッグ中毒となり、水死してしまう。カールもすでにこの
世にはいない。そうしたことは、父親の虐待によって受けた傷とは無関係
ではないのだろう。

ビーチボーイズの音楽はほとんど、ブライアンが一人で作った様なものだ
った。作曲、アレンジ、プロデュースをほとんど一人でてがけていた。
そのため、プレッシャーもすべてブライアン一人に集まった。レコード会
社は早くレコードを出せとせっつき、父親は執拗にプロデュースに口を出
し続ける上に曲の印税をかすめとろうとし(本当にどうしようもない父親
なのだ)、他のメンバーもブライアンに頼りっきりの上にプレッシャーを
かけ続けた。

『ペット・サウンズ』完成後、ブライアンは(前述のように)酒やドラッ
グや過食に逃避する様になり、精神を病んでいく。体重も150キロを越
し生命さえ、危ぶまれる状態になる。

この自伝の後半部で鍵になるのが、ユージン・ランディという精神科医だ。
何人の精神科医にかかっても、どうにもならなかったブライアンをランデ
ィは型破りな治療法で立ち直らせてしまう。ランディの優しさと強さやブ
ライアンとの間の友情は感動的だ。

ブライアンとランディの親交を快く思わなかったマイク・ラブをはじめと
するビーチ・ボーイズ側は「ランディはブライアンを利用している」と裁
判を起こし、結局、二人を無理やり引き離してしまう。しかし、実際に命
まで危ぶまれていたブライアンを完全に立ち直らせたのだ。ブライアンは
去年は来日公演もしたし(残念ながら見にいけなかったが)その後も元気
に音楽活動を続けている。おかしなことを言っているのは、どうみてもビ
ーチ・ボーイズ側だと思う。

前にこの日記の中でも紹介した、『BS音盤夜話』の中では、「ビーチ・
ボーイズには二人の天才がいた・・ブライアン・ウイルソンとマイク・ラ
ブだ」なんて発言があったが、とんでもない話だと思う。声だけは確かに
素晴らしいんだけど。マイク・ラブは。


立ち直ったブライアンが作ったソロ・アルバム『Brian Wilson』を、聴い
てみた。ポップセンスにあふれ、なかなかのものだった。そう思って聴く
と、再び音楽ができる喜びに満ちているという感じである。

ただ、『ペット・サウンズ』にあった「何か特別なもの」はやっぱり、な
くなってしまっている。いくら天才であってもあそこまでのものを作れる
のは一生の間の一時期であるのかもしれない。それを思うと『ペット・サ
ウンズ』の次に作られる予定だった『スマイル』が。結局未完に終わった
のはかえすがえす残念だ。結局『スマイル』には実体なんてなかったんだ
という意見もある様だが、残された色んな断片を聴くにつけ、そんなこと
はないと私は思う。ただただ、完成できなかったのだ。まあ、それは思っ
ても詮ないことなのだが。



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