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趣味の日記



渡辺明竜王 vs ボナンザ


2007/3/21(水)




品川プリンスまで、「渡辺明竜王 vs ボナンザ」を観に行った。
将棋界のトッププロと最強の将棋ソフト「ボナンザ」が平手で対
局する世紀の一戦(?)である。

でもどうも盛り上がっているのは、マスコミ関係者が中心で一般
の関心は今ひとつ低いみたいだ。この対戦はネットでも観戦でき
るのでどうしようかと迷ったが、5日くらい前にやっぱり現地に
観に行こうとチケットを買った。最終的にチケットは完売となっ
たみたいだがこの時点ではまだ間に合ったのだ。実際、行ってみ
たら観客はそれほどの人数でもない(その分、やたらプレスの人
が目についた)

NHKではこの対戦についてそのうち特番を放映するらしいが、10
年程前、チェスの世界でコンピュータ(IBMのディープ・ブルー)
が人間(カスパロフ)に勝った時は、世界中で大騒ぎになったこと
を思うとこんなに関心が低いのは意外な気がする。下馬評ではま
だまだ人間(渡辺竜王)の方が有利と言われているせいもあるだ
ろうが、それにしても。

まあとにかく、品川プリンスに到着。
前回、NHKの公開収録で将棋を観に行った時(放映が終わったら
この時のことを書くかもしれません)の客層は、ほとんどが中高
年男性だったが、今日の客層はだいぶ幅広い。女性も若い人も見
うけられる。やはりこの特殊な対局の性格を反映しているのか。

大和証券が単独スポンサーとなっていて、その分、企業の自己主
張が鼻につく。なんとも気色の悪い開会式。代表取締役の挨拶が
あり(そんなもの聞きたくない)、「主役の登場です」とかいっ
て下らないジングルと共にスモークがたかれる(そんなもんたく
なよ)。どうも日本の企業にはあまり表に出ず、スマートにスポ
ンサーになるという発想がないみたいだ。「金を出してるんだか
ら、やりたい様にやるのは当然」と思ってるんだろうか。ボナン
ザの開発者、保木さんも竜王はじめ将棋関係者もさすがに困惑気
味の様子。


開会式での保木さんの言葉「(ボナンザを)作ったのは私ですが、
今日はただの操作係です。先ほどコンピュータ将棋協会の会長が
「勝つ確率は100万分の1」と言われましたが、私は勝つつもりで
きました。確率は10万分の1とさせて下さい」

コンピュータの強みは「心がないこと」とも言われている。コン
ピュータは相手の指した手に動揺したりしない。自分の指した手
がまずかったと悔やんだりもしない。淡々と最善手を探すだけで
ある。しかし、当たり前のことだが、コンピュータに心はなくと
も、ソフトを作った人は生身の人間である。今日までやれるだけ
のことはやって、対局が始まれば「ただの操作係」であるはずの
保木さんが見るからに緊張している。ボナンザの手を指す役は奨
励会(いわばプロ棋士の見習い)の人がやったのだが、初手だけ
は保木さんが指した。この時だけマスコミがステージ(今日の場
合は360度まわりを囲まれたステージ)近くにきて写真を撮るこ
とが許可されている。写真撮影用に初手を指す動作を繰り返すの
だが、保木さんの手は明らかに震えていた。対する、渡辺竜王は
落ち着きはらっている。この対照的な姿は(言っちゃ悪いが)見
ていて面白かった。


まあそんなセレモニーも終わり、いよいよ本格的に対局が始まる。
持ち時間は各自2時間ずつ、それが切れると一手1分以内。長丁
場になるのか。

ところが、いざ対局が始まるとものすごいスピードで手が進んで
行く。ボナンザも竜王もほぼノータイムで指していく。せっかく
の勝負があっさり30分くらいで終わったら嫌だなあと思い始め
ていたらボナンザの手(ボナンザに手はないけれど)が止まった。
頃合いを見て、宴会場に設けられた大盤解説に移動する。この移
動は結構遠かった。

大盤解説は森内名人、鈴木大介八段、木村七段が順番に担当。聞
き手役で中井広恵さん、山田久美さんとなかなか豪華。これで千
葉涼子さんが来てくれたら言う事ないのだが、まあそれは個人的
な願望。木村七段の解説はすごくおかしかった。おもろい人や。

ボナンザは、四間飛車に振って一目散に穴熊に囲った。金銀4枚
で固めた、がちがちの穴熊。対する竜王も居飛車穴熊に。双方、
相当固い。ボナンザの方はがちがちに固めたのはいいんだけど、
そのせいで攻め駒が飛車と角ぐらいしかない。(悪手かどうかは
ともかく)人間ならまず指さない様な手も出たりして、このまま
見せ場もなく負けてしまうのではないかという雰囲気になりかけ
た。

ところが、そこからのボナンザがすごかった。角を見事にさばい
て馬を作った。対する竜王も竜を作ったが、優劣不明ぐらいの形
勢まで持ち込んだ。指し手を間違えそうな難しい所でも正確に指
す(もちろん、これは解説を聞いてるから分かる事。私の棋力で
は到底分からないレベルの高い話です)

でも最終的には終盤に竜王が切れ味の鋭い攻めと正確な寄せで勝
利する。ボナンザも攻め合いに行ったのだが、最後は桂馬がない
と王手がかからない形(桂馬ゼット)になり、一手違いの負けと
なる。

勝負の行方がほぼ決まった段階の大盤解説室。観客から「ボナン
ザの棋力はどれくらいなんでしょうか?」という質問が飛ぶ。そ
れまで快調にしゃべりまくっていた木村七段が、言葉につまって
いると中井さんが「竜王と一手違いということですよ」とうまい
答え方をする。

専門的には、一手違いと言っても最終的にかなりの差が開いたと
いうことになるらしいが、それでも竜王と一手違いなのだ。並の
力じゃない。渡辺竜王は局後の記者会見でも「毎回、勝てる自信
はない」と言っていた。10万回に1回どころか、少なくとも100
回に1回くらいは勝ちそうだ。失礼だが並のプロ相手だと10回に
1回くらい勝つような気もする。竜王は序盤中盤こそ、ちょっと
慎重すぎるかと思うくらいの指し回しだったが、終盤戦の寄せ合
いでは一手の狂いもなかった。一手でも間違ったら危なかったか
もしれないし、プロと言えども、なかなかここまで完璧に指せる
ものではない。ボナンザの強さにも驚いたが、弱冠22歳の竜王
の強さも再認識させられる結果だった。


対局は約3時間で終了した。ボナンザの消費時間は1時間55分。
渡辺竜王は1時間11分。持ち時間が短ければ短いほどコンピュ
ータの方が有利と言われていたみたいだが、結果的にボナンザの
方が長く考えていたのが興味深い。最後の方で決定的に不利にな
ってから、往生際悪く長く考え込んでいたのが人間臭いと言うか
何を考えてるんだか。詰まされるまでやるのかなあと思っていた
ら投了。形勢を自分で評価し、一定以上の差が着いたら投了する
という設定にしてあったらしい。

とにかく驚いたのは、ボナンザが中盤に強かったことだ。一般的
に将棋ソフトは序盤は定跡を覚えさせればいいし、終盤の読みは
正確(たとえば詰め将棋を説く力では、すでにコンピュータが人
間を上回っている)、問題は中盤だと言われている(・・と思う)
しかし、ボナンザは中盤で見事に力を出した。正直言って、これ
は人間を追い抜くのは時間の問題ではないかという気がする。



局後に行われた記者会見の内容は極めて興味深いものだった。

まずは渡辺竜王。

一週間くらい前から、ボナンザ対策を研究しまくったらしい。

「好きな手、嫌いな手、長所、短所、かなりの事が分かりまし
た。現在、プロ棋士でボナンザについて一番詳しいのは僕でしょ
う(笑)」

えーと、上記は記者会見じゃなくて、渡辺さんのブログからの引用
(更新、はや)でした。すみません。竜王、おつかれさまです。

でも竜王が研究したのは自分のPC上のボナンザであり、本番では
もっと強いものが出てくるのが心配だったそう。その心配は現実
のものとなり「大体、大駒一枚分くらい」強くなっているとの印
象を受けたと言う。序盤の指し手が早かったのは自宅のボナンザ
と指し手が同じで研究通りだったせいらしい。しめしめと思った
が、そのあとが違ったそうだ。自宅のボナンザは強引な攻めを仕
掛けてきて自滅するのだが、今日のボナンザはそういった攻めを
「思いとどまった」とのこと。ふーん。


ボナンザの開発者、保木邦仁さんのコメントは更に興味深い。
(以下、大体の記憶で書いてます)

「とにかく、鑑賞に耐えうる棋譜が残せただけで大満足です」
「マシンのスペックもあがっているが、プログラム自体も改良し
ました。竜王の大駒一枚くらいと言う表現は(自分は専門家では
ないので)良く分かりませんが、「次の一手」問題の正解率が少
なくとも3%くらい良くなりました。これは相当大きいことだと
思います」

竜王の攻めの決手となった「3九龍」について質問が出る。ボナ
ンザはこの手を軽視していたらしい。どうしてそうなったのか?

「一直線の読みというものができないことに問題があったのだと
思います。すべての手を読めるというのはコンピュータの長所で
もあるのですが、この様なケースで一直線の読みができないとい
うことは短所となることが分かりました。この点については今後、
改良できると思います」

ちょっと難しい話になっているので記者から追加して質問が出る。
多分、間違ってないと思うのだが以下は私の解釈。

人間・・というかプロであれば一目で、この先は変化がなく一直
線に進むと分かる局面があるが、ボナンザにはそれが認識できな
い。たとえば、プロが10手先までが、一直線だと判断したら、そ
こから先の手を読むのだがボンンザにはそれが出来ない。その様
な場面で仮にボナンザが20手先の変化まで読んだつもりでもプロ
の目からすると実質的には10手先までしか読んでいないことにな
る。・・もうひとつうまく説明できないが、大体そういうことで
はなかろうか。

「今後の課題は?」との質問に「序盤だと思います」と保木さん
は答える。

終盤での修正すべき課題はさっき言ったとおり。中盤での強さは
見せつけた(保木さん自信がコメントしたわけではないが)。問
題は、序盤。駒の配置というのは重要だと保木さんは考えている
らしい。単に定跡を覚えさせるだけでは満足しないのだ。隣で竜
王もうなずいている(様に見えた) 保木さん自身は将棋の腕は
(自称)初心者らしいのだが、とにかく頭のいい人なんだなと思
う。

そもそも、保木さんにとって将棋ソフトの開発は趣味であったそ
うだ。(本職は東北大学大学院の研究員、専門は理論物理化学)
自分自身は将棋に関しては、まったくの素人なので、どうしたら
強いソフトが作れるかという方法論を考えた。そしてボナンザに
膨大な棋譜を覚えさせ「自分で強くなる」ようにしたという。
(それを具体的にどうやるのかは私には想像もつかないし、説明
されても多分理解できないだろう。しかし、それこそ本当の人工
知能(AI)かもしれない)

そうやって単なる趣味から生まれたボナンザは昨年、初出場した、
世界コンピュータ将棋選手権大会(コンピュータどおしで戦う)
で、優勝した。個人が趣味で作ったソフトが、いくつもの会社が
相当な人とお金と時間をかけて開発してきたソフトを負かしてし
まったのである。


一番興味深い話は「今回、渡辺竜王対策としてソフトを特別に修
正したのか?」という質問に対する答えだった。

渡辺竜王の棋譜はボナンザの参考になるほどの量があるわけでは
ないので、今回それは考えなかった。

ボナンザを強くする理想的な方法はプロを相手に数多く指すこと
だが、膨大なデータが必要なので人間相手にそれをやるのは実質
上、不可能だ。それでどうしたかと言うと、他のソフトを相手に
何10万局も指させた。そうするとボナンザは穴熊ばかり指すよう
になった。



多分、近い将来ボナンザが(あるいは他のソフトが)人間に当た
り前に勝つようになるだろう。そして結局「四間飛車穴熊が一番
強い」と結論が出てしまうかもしれない。もしそうなってプロが
こぞって、四間飛車に振り穴熊に囲うようになったとしたら、ち
ょっと味気ない様な気もする。

でも、私も四間飛車の穴熊は大好きです。あまり勝てないけど。


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